異動続きで「損した」と思っていた私が、カッツモデルで救われた話

第一事業部|本業・キャリア

サラリーマンを25年やってきました。

今回は、今のキャリアでこのままでいいのだろうかと悩んでいる人に向けて書きます。自分株式会社の第一事業部、本業の話です。


異動のたびに、ゼロに戻される感覚

私は異動の多い会社員人生を送ってきました。

エンド営業、マンションの計画業務、宣伝計画の企画、法人営業、新規事業を含む事業企画、開発不動産の用地取得、保有不動産のアセットマネジメント。一つの会社にいながら、これだけ職種が変わっています。

困るのは、やっと自分の思い通りに回せるようになってきた、と感じた頃に異動が来ることです。

新しい部署に行けば、その業務の知識を一から覚え直さなければなりません。専門用語も、業界の慣習も、社内の手続きも違う。前の部署で積み上げたものが、使えなくなる感覚がありました。

キャリアの中盤ごろは、正直こう思っていました。

自分はスキルがリセットされ続けている。損をしている。

隣のチームの管理職は、10年同じ仕事をしていました。業務に精通していて、誰よりも詳しくて、やりやすそうに見えた。羨ましかったのを覚えています。

自分だけが、いつまでも新人みたいな顔をして座っている。そんな気分でした。


カッツモデルを知って、腑に落ちたこと

この感覚が変わったのは、カッツモデルという考え方を知ったときです。

1955年、ハーバード大学のロバート・カッツが『Harvard Business Review』に発表した論文「Skills of an Effective Administrator」で提唱された理論です。70年前のものですが、今も企業研修や人事評価の土台として使われ続けています。

カッツは、管理職に必要な能力を3つに分けました。

テクニカルスキル(業務遂行能力) 担当する業務を遂行するために必要な知識や技術。専門性そのもの。

ヒューマンスキル(対人関係能力) コミュニケーション、交渉、調整。人を動かし、巻き込む力。

コンセプチュアルスキル(概念化能力) 物事の本質を捉え、全体像を描き、方向性を決める力。

そしてカッツが言ったのは、役職が上がるほど、必要なスキルの比率が変わるということです。現場に近いほどテクニカルスキルの比重が大きく、上に行くほどコンセプチュアルスキルの比重が大きくなる。ヒューマンスキルは、どの階層でも一定の比重を占め続けます。

これを知ったとき、自分が何を損して、何を得ていたのかがはっきりしました。


積み上がっていたのは、別のスキルだった

異動のたびにリセットされていたのは、テクニカルスキルだけでした。

一方で、リセットされていなかったものがあります。

新しい部署でゼロから信頼を作り直す力。知らない相手と交渉する力。他部署に頭を下げて助けてもらい、周りを巻き込んでいく力。バラバラの方向を向いているメンバーを、同じゴールに向かわせる力。

これらは、異動するたびに鍛えられていました。

むしろ、10年同じ場所にいたら、ここまで場数は踏めなかったかもしれません。毎回ゼロから人間関係を作り直すというのは、しんどい作業ですが、確実に筋力にはなります。

そしてカッツモデルに照らせば、管理職に上がるために必要なのは、テクニカルスキルの深さではありません。 ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルのほうです。

隣の管理職が羨ましかったのは、私がテクニカルスキルを物差しにしていたからでした。物差しが違っていたのです。


40代半ばで、まだ気づいていない人たち

若い頃の私は、仕事ができるということをこう定義していました。

契約件数を誰よりも多く取ること。斬新な企画を考えて、それを実現すること。

これは間違いではありません。若いうちは、まずそこで結果を出す必要があります。

ただ、この歳になると分かるのは、そういう役割の人間だけでは、会社は動かないということです。個人の突破力だけで上げられる成果には、限界があります。

そして厄介なことに、40代半ばになってもこの定義のまま止まっている人を、何人も見てきました。

そういう人に限って、自分の能力の現在地を見ずに、未来だけを見ています。 部長になりたい、もっと上に行きたい。でも、そのために何が足りていないのかは見ていない。

悪いことだとは思いません。向上心があるのは良いことです。ただ、今の自分に何が足りていないかを直視しないまま未来だけを見ても、そこには届きません。

キャリアを考えるうえで一番大事なのは、行き先を決めることではなく、今の自分の現在地を正確に知ることだと思っています。


与えられた仕事を、自分のやり方でやる

サラリーマンをやっていると、やりたい仕事に就ける確率は、正直それほど高くありません。だとすれば、与えられた仕事の中で成長するしかない。

ここで大事なのは、与えられたことを一生懸命やるということです。

ただしこれは、言われたことをそのままやる、という意味ではありません。役割は与えられるが、やり方は自分で決める。 自分の意思でやる。この違いは決定的です。

逆に、伸びない人には共通点があります。原因を自分の外に置くことです。

この役割は嫌だ。この部署にいるから出世できない。上司の言うことは分かるが、この部下がいるからパフォーマンスが上がらない。

こういう形で不満を抱えている人は、残念ながらあまり成長しません。自分のパフォーマンスの原因を自分の外に求めている限り、改善できるものが何もなくなるからです。


キャリアは、後からしか繋がらない

私自身にも、深く落ち込んだ経験があります。

ずっとやりたかった新規事業の企画を立ち上げて、さあこれからという時に、別の部署への異動が決まりました。あのときは本当にやる気を失いました。

考え方が変わったきっかけは、スティーブ・ジョブズが語った**「コネクティング・ザ・ドッツ」**という考え方でした。

点と点は、先を見て繋ぐことはできない。後から振り返って、初めて繋がる。

キャリアは、計画して作るものではなく、積み重ねた結果を後から繋いで見えてくるものなのだと思います。

夢ばかり見ていると、その職に就けなかったときに、ただがっかりして終わります。私がそうでした。

もちろん、自分の信念に背くような仕事であれば、辞めたほうがいい。ただ、そうでないなら、やってみたほうがいい場合がほとんどです。

人事は誰かが決めています。そこには何かしらの意図があるはずです。この人にはこの仕事が向いている、この人が入ればチームが良くなる。そういう判断が働いている。

どうしてもやりたいことがあって、抗うことがあってもいい。ただ最終的には、積み重ねたものがすべてです。

最近になって、これだけ引き出しができていたのか、と思う瞬間があります。あの頃「損した」と思っていた異動が、全部その引き出しになっていました。


今いる場所で、最高の結果を出す

結論はシンプルです。

今いる場所で、自分に何が足りていて、何が得意なのかをしっかり考える。そのうえで、その場で最高の結果を出すことに集中する。

これしかありません。

そして、これは自分株式会社の第一事業部の方針そのものでもあります。勤務先は最大の取引先です。取引先に価値を提供し続けることが、当社の単価を上げ、結果として選択肢を増やしていきます。

これまでのキャリアを否定しないでください。「あれは損だった」と思っている経験ほど、後から引き出しになります。

私は25年かかって、ようやくそう思えるようになりました。


※本記事は個人の経験に基づく記録であり、特定のキャリア選択を推奨するものではありません。

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